「あなたの行動は他人の行動に左右されますか?」と聞かれると、自分はそんなことはない、自分はこれまでも他人に左右されず、自分で判断してきたと思いたいと感じます。
それでも日本人は、周囲との調和を美徳としますが、アメリカ人はそんなことはないだろうと考える人も多いと思います。ところが人は自分の行動に何が影響を与えているか、実際はよくわからないのです。
顧客の心を動かし、購買に結び付けることはセールスパーソンにとって永遠のテーマです。ここでは、人は何を基準に動くかという点で、なるほどと思える2編を紹介します。
(1) テレビショッピングで購買者を激増させたセリフ
アメリカの有名なテレビショッピング番組をいくつも手掛けた放送作家コリーン・スショットは、テレビショップ定番の決めセリフをわずか3か所変更しただけで、購買者数を激増させました。
定番の決めセリフであれば、「オペレータがお待ちしております。いますぐお電話ください」というところを「オペレータにつながらない場合は、恐れ入りますが、繰り返しお電話ください」と変更します。
これは、一見顧客が余計な負担を感じることに思えるかもしれません。
ところがこの番組を見た人は、他人の行動を思い浮かべたのです。
「オペレータがお待ちしております」と言われれば、電話の向こう側では、オペレータが今か今かと電話を待ち構える姿や鳴らない電話に待ちぼうけする姿を想像するでしょう。
ですが、「オペレータにつながらない場合は、繰り返しお電話ください」と言われれば、他の人はきっともう電話しているのだろう、早く電話しないと買えなくなると考えます。
他の人が電話しているなら、自分もしようと他人の電話する姿に影響されて、自分も電話を掛けてしまうのです。
(2) ホテルがタオルの再利用を宿泊客に促すには?
最近のホテルでは、環境保護を重視したところも多いです。資源保護・リサイクルの観点から1本のタオルを繰り返し利用することをどのように宿泊客に受け入れてもらうか?あるホテルでカードを2枚用意しました。
1枚は基本的な環境保護のメッセージを記し、もう1枚は、大多数の宿泊客は少なくとも1度はタオルを再利用しているという事実を伝えます。
結果は後者の方が26%も再利用率が高かったそうです。更にもう1枚カードを用意します。カードには過去にその部屋に泊まった宿泊客が最低一度はタオルを再利用した、と伝えます。
結果は更に再利用率が高かったそうです。これは、メッセージが自分と似ている人たちに向けたもの、自分と同じ境遇・環境にある人たちに向けたものであればあるほど自分の判断は影響されやすいことを示しています。
テレビショッピングやホテルでなくても同様です。
同じ業界・同規模の中堅・中小企業や店舗が自社のサービスを利用している方が、大会社の事例を曳くより有効です。あそこがやっているなら、うちが使ってもうまくいくはず、と多くの人は行動を決断するからです。
【参考文献】
N・J・ゴールドスタイン S・J・マーティン R・B・チャルディーニ
「影響力の武器 実践編」誠信書房